援助者の傲慢、越権。
世帯構成:本人70代女性と、娘30代の二人暮らし。父親は他界。娘は所謂不倫相手の子供であり、父親亡き後は本人が懸命に働き育て上げる。
主介護者である娘から毎日のように電話連絡あり。本人がヒステリー(医学的な意味で)の状態になり、攻撃的、暴言を吐く等の行為がエスカレートしている。この間はバスの中でも大声で反社会的な言動を言って、大変な目にあったと。
本日、定期訪問にて、本人と主介護者の娘と面接する。
本人からの話しにて、自分は生きているだけで娘の人生を駄目にしている。娘が独身でいることも自分がいるからである。自分がいるから、娘は嫁にいけないのではないか、等、自虐的な感情の最中にいた。
反面、主介護者の娘からは、「でも、お母さんはたまに「私の面倒を看るのなんて子供として当然だろ!」っていう時もあるよね。
と、返す。
本人としてはヒステリー状態の中で発している言動は、明確な記憶に残っておらずに、娘に言われると、「私、そんな事を言うんだね、どうしようもないね」と、落胆する。抑うつ傾向がみられる。
娘も、日ごろの介護へのストレスから言い過ぎたと気付いたのか、「お母さんのことを嫌いじゃないんだよ、でも、あんな言い方を毎日されていたら、私だって本当につらいから。」 と。
長谷川式スケールを実施すると30点中27点を取る。主治医からは認知症と診断されているが、ここ1年くらいの付き合いにて認知機能の低下を見られないことから、自分はこの診断を診断としてだけ受け止めている。
この抑うつ傾向の原因は、自責の念。
自分の存在の否定。
母として。
ひとり、娘を育てるためにいくつものパートを掛け持ったこと。
子供を世間体の悪さから守りたいと、ずっと思い耐えてきたこと。
今でも、自分の病気や精神的不安定よりも、娘の将来の心配をケアマネジャーに吐露している事。
どこまでも、母であること。
しかし、母は結局単なる役割であって、あなた自身だって何度誰かに頼りたいと思っただろうこと。
それがかなわずに、必死に今まで耐えて耐えてひとりの娘を育て上げた事。
そんな娘は、
今、娘が愚痴は言うかもしれないけれど、大事に介護を続けている事。
泣き言をいっぱい言うけれど、お母さんのことを一番好きでいる事。
これら、
まぎれもなく、あなたが必死の苦労で育てる事が出来た、かけがえのない娘である事。
自分の価値は、自分では一番わかりにくい事。
自分を否定する事、卑下する事、邪険に扱う事、これらは一番簡単な手段。
自分を大事にすることが、実は一番難しい事であると。
自分の価値は自分ではわかる事が出来ずに、誰かを必要とする事。
この、お母さん思いの娘を育てたのは、紛れなくあなたです。
貴方に価値が無いなんて、娘をみればわかるんじゃないかな。
母として、こんな人を思いやれる娘を育てたという事は、
あなたに、生きている価値があるという事。
だから、生きていていいんですよ。
病気が治っても、治らないでも、あなたは生きていていい。
そのまんま、生きている資格が十分ありますよ。
あなたには価値があるんです。
それを教えてくれているのは、娘さんですよ。
と。
自己否定、存在の否定から発する、フラストレーションからのヒステリー。
「殺せばいいだろ!」
「いつまで私をかまってるんだ!」
「こんなまずい飯が食えるか!」
本当は、
「自分がいることで、娘であるあなたをこれ以上苦しませ不幸にするのならば、
私は消えてしまいたい、でも、私から言えないから、私を嫌いになってください。
そして、捨ててしまってください。あなたを苦しませていることがつらいんです。」
という悲しい気持ちの、反動なんだろう。
ただ、
人は、矛盾する弱い人間であるのだから、
親も歳を取れば子供にすがりたくもなる。それも本心。
邪魔にはなりたくないことと、
子供にすがっていたい親の性が同居するのも、人。
「それでいいんですよ。完全な親をみせないで。
強がっているけれど弱いのが人である、親であることを子ともに見せることも、
きっと、子供の想い出になり、お母さんへの愛着になりますよ」
涙の中の、会話が終わり、
その世帯を後にするときに、偉そうなことをこれだけ吐いた時に、いつもそうであるように、
この寒空の下で、俺はどれほどの存在なんだろう、と思う。
偉そうに、人に説教を垂れて。
俺だって、自分の事で精いっぱい、いやそれさえ不十分なのに。
どこから、あんなことを言えた人格者なんだってんだろう。
こんな自分が吐き捨てるくらいに、落ち込んでしまう。
本当に、偉そうなことを言う。
俺は、とてもとても、よわっちい人間で駄目なのにね。
でも、最近は、そんな自分を少し、許せるようになったことが、
何よりの、成長なのかな、とも思う。
ケアマネジャー。
そんなもん、大嫌いだし、誰かに必要とされるための仮面、手段でしかない。
困っていたら、ほっとけないじゃん。
それ以上が、俺にはない。
だから、介護保険なんて、正直どうでもいいんだ。